本文へ移動

つまづいて、立ち止まって

2021-09-02
一つのホールケーキを80等分に…
5月のことですが、ある日ランチルームをのぞくと数人の年長さんがテーブルを囲んで呆然と佇んでいました。
子どもたちの視線の先には、1個のスポンジケーキが…
 
赤碕こども園では数年前からか、全体の誕生会を年長さんが企画してくれるようになり、「年長になったら誕生会するんだ!」という憧れもあって、今年も引き継がれています。
企画の一つとして、例年は誕生会に飾る「飾り物のケーキ」を制作してきましたが、今年は、「偽物だとうれしくないと思う」と、毎月誕生会の日に本物のケーキを作ろう!ということになったそうです。

このコロナ禍、クッキングなどは慎重にならざるを得ないご時世ですが、担当の先生は「『どうせコロナだから出来ない』と、始める前から考えることをあきらめて欲しくない」と、この計画を子どもたちと話し合ってきました。
年長さんたちは作りたいケーキを考え、ケーキごとにグループを作り、作り方や感染対策を調べ、専門家の給食の先生にアドバイスをもらい、5月にいよいよ第1弾の「イチゴのショートケーキ作り」がスタート。

実はこの時、子どもたちが調べたケーキ作りの分量は、ホール1つ分だったそうです。
子どもたちはケーキを作り、見事焼きあがったケーキを見て「できた!」と大喜びしたのですが、どうも100人近い子ども全員で分けるにはこのケーキは小さすぎる…ことが判明した、というのが冒頭のシーンです。
 
一時期、「フラッシュカード」という教育方法が流行ったことがあります。イヌ、ネコ、ゾウなどのイラストや、難しい漢字カードを先生が次々めくり、子どもたちが『考えなくても』反射的に言えるようになる。
その効果を端的に言えば「大量の情報を効率よく脳にインプットできる」こと。多くの労力も必要とせず、苦痛を強いることなく、子どもを物知りにさせられます。
でも「パターン化された知識」を詰め込むという効率重視の考え方が、本当の意味で「学ぶ」ことになるのでしょうか。
 
例えば1枚の絵を見て、瞬時に「ケーキ!」と叫べることが、その子の人生にどんな意味があるでしょう。
冒頭の年長さんはケーキを囲んでしばらく声すら出ませんでした。
その後、顔を見合わせ「ちっちゃいな…」とつぶやき、「自分たちだけで食べちゃおうか?」という葛藤を乗り越え、どうするか話合い、1つのケーキを80人で分けるということが実際どんなことなのかを自分ごととして体験し、小さな小さなケーキをじっくり味わって食べる。
すごく回り道に見えるこの過程の中に、どれだけの学びや成長があったか計り知れません。
先生が「最初から失敗しないよう」に人数分の材料を用意し、「効率的に」このケーキ作りをしていたら、ここまでの学びはあったでしょうか。

カードを次々流していくのではなく、その1枚1枚で立ち止まる。そういう歩みの中にこそ、本当の意味での豊かな学び、生活の面白さがあるのだと思います。
TOPへ戻る